高齢者になると、イライラして当たり散らしたり、愚痴っぽくなりやすくなり、イライラしたお年寄りが店員を叱り飛ばしたり、マナーの悪い人を怒鳴ったりする様子を見かけます。反対に、「ワシなんてもう、何の役に立たないから・・・・」などと、愚痴めいたことを口にするお年寄りもよく見かけると思います。
■怒りっぽい人は、何かの刺激を受けると冷静さを失い、感情をぶつけずにはいられないような心境に見えます。
愚痴っぽい人は、何度励ましても言葉が心に浸透せず、不満のベールに覆われているように見えます。
こうしたお年寄りも、以前は冷静で大らかな人だったり、朗らかで明るい人だったのかもしれません。
それなのに、老年期になると怒りっぽくなったり、愚痴っぽくなったりするのは、どうしてなのでしょう?
老年期はさまざまな「喪失」を体験する年代だと言われます。
老年期の人が抱える思い、さまざまな「喪失」とはなにか?
■たとえば、体力が落ちて若いころのように動けなくなったり、体のあちこちが老化して、病気がちになることは、「身体」の喪失体験です。
運動能力が明らかに低下しているのに、気持ちだけは昔のままというキャップ。
若い時は気が付かない・・・
例えば、地面を眼で見たとおりに歩くことが困難になります。
敷居があっても、どうやって超えるのか迷ってしまうのです。
右足をあの辺りに、そして左足でまたぐ・・・と頭で考えますが、そのとおりにできなくて左足を引っ掛けてしまって、コケてしまいます。
■また、子どもが巣立ち、パートナーや友人、周りの人間の死に向き合うことが多くなります。
それは「人間関係」の喪失体験です。
仕事を引退したり、子育てから卒業することは、「役割」の喪失体験です。
特に、「老いては子に従え」の諺どおり、子供の主張が強くなり始めると、反論しても勝てなくなり、余計に喪失感が強くなります。
このように老年期に入ると、それまでは当たり前だったことが急にできなくなったり、失ったりします。
次々にこうした喪失体験に向き合っていく老年期は、心が非常に不安定になりやすい年代なのです。
■怒りっぽいお年寄りのように、怒りを外に向けて発散している人は、まだ心にエネルギーがある証拠ですが、怒りは人を傷つけるため、やがては周りにいる人から距離を置かれてしまうでしょう。
愚痴っぽいお年寄りも、共感できる相手と話して発散しているうちはいいのですが、愚痴の多い環境は人を陰鬱にさせるため、やがては人から敬遠されてしまうかもしれません。
そうして徐々に孤独になり、不満を溜め込むようになlります。
そのままでいるとうつ病を発症し、生きていくことに希望を見出せなくなって、生きる気力を失っていくかも知れません。
一般的なうつ病では、憂うつ症状が特徴的ですが、
老年期のうつ病の場合、憂うつより、不安やあせりの症状の方が強く出ることが多いため、気づきにくいとも言われています。
たとえば、「年金でやっていけるかしら」と金銭的な不安を洩らしたり、
「これから私は、1人でどうしたらいいの?」と焦って子どもに何度も電話をしてくる話を耳にしますが、何度も繰り返すようになったら、うつ病のサインかもしれません。
「また同じことを言っている」「気のせいだよ」と受け流さず、しっかり話を聞いて様子を見ていき、同じ様子が続くようなら、一緒に精神科を受診して相談してみましょう。
また、老年期のうつ病には「最近、胸が苦しい」「胃の調子が悪い」といったように、体のあちこちの症状を訴える場合も多いと言われます。
内科検査で異常がなくても体の症状を訴え続ける場合には、うつ病の傾向があるのかもしれません。
認知症の初期にもうつ症状が出ることは多く、早期に受診をして上のような症状がうつ病によるものなのか、認知症によるものなのかを診断してもらうことも大切になります。
高齢者の抱えるストレスは、同じ体験をしていない世代には理解しにくく、その心情に気づきにくいものです。
喪失体験に直面した寂しさや不安に気づかず、他人への八つ当たりの形でぶつけたり、身近な人へのひがみや嫉妬の形で噴出させる人もいます。
さらに、ストレス解消の仕方も十人十色です。
一方で、「他人に迷惑をかけたくない」という遠慮や、
「いつまでも元気で明るい親でいたい」
という希望(そうでないと失望される不安)から、本音を出せない人もいます。
地域の人や友人と上手につながり、喪失体験を分かち合うことでストレスを軽くしている人もいますし、スポーツや趣味のサークルを探すなどして、外に向かって積極的にストレスを発散させている人も大勢います。
その一方で、人づきあいが苦手な人、気持ちを打ち明けることが苦手な人、活動範囲を広げていくことが苦手な人も多いのです。
「もっと外に出たら?」
「友だちをつくった方がいいよ」
とアドバイスするのは簡単ですが、そのアドバイスを実行できる人ばかりではありません。
■それは高齢者に限らず、どの年代でも同じだと思います。大切なのは、アドバイスより、じっくりその人の思いを聞いてみることです。
「最近、イライラしているな」
「何か不安そうに見える」
と感じたときには、まずは、その人の話を「聴く」ようにしましょう。
「イライラして見えるけど、話を聞かせてくれませんか?」
「何か不安があるの? よかったら話してくれる?」
こうした言葉かけで、相手が安心して話せる雰囲気をつくってあげることが大事です。
怒りや不安、あせりや憂うつは、その思いを誰かに受け止めてもらえるだけで、とても楽になるものです。
「こうすればいいのに」
「どうしてこう考えないのだろう?」
という思いが浮かぶかもしれませんが、最後までその人の気持ちを知りたいという気持ちで、話を聴いてみてください。
そうすることで、何かアドバイスのヒントが見えてくるかも知れません。
聞いてもらえただけでもすっきりし、解決が必要なくなることもあります。
たとえ、手に負えないような話でも、聞いた人だけが抱える問題ではなく、周りや社会に支援を求めることで、よりよく解決していけることもあります。
そして、話を聞いた後には、
「よく話してくれましたね」
「気持ちを聞けてよかった」
と、話してくれたことへの労いと感謝の気持ちを伝え、「これから一緒に考えていきましょう」と伝えるといいでしょう。
不安定な高齢者の気持ちを楽にするには、こうした「寄り添い」がなにより力になるのです。
やがては行く道と捉えることによって、あなた自身にとっても良いヒントが見つかるかも知れません。